争点は断ったことではなく、期待を裏切ったこと
「いいえ」と言いにくいとき、あなたはほとんど「はい」とは言いません。「考えてみます」「頑張ってみます」「できたら」と答えます。自分には逃げ道を残せたように感じますが、相手に聞こえているのは別のことです。相手は、準備しておける可能性として受け取ります。
相手はその可能性をもとに、予定を立て、予備の案を取りやめ、別の人に「もう決まった」と伝えます。あなたが来なかったとき、相手が失うのはあなたの助けではなく、自分の計画です。だから不満の矛先は、断ったことではなく、あなたに裏切られたことへ向かいます。
ここで起きているすり替えに気づいてください。やわらかい返事で対立を小さくできたように思えても、実際には対立を先送りし、さらに大きくしています。ぶつかる頃には、かかっているのは頼みごとではなく、信頼だからです。
- 火曜休日に出勤してほしいと頼まれます。あなたは「どうなるか見てみます」と答えます。
- 木曜あなたはもうシフトに入れられています。頼んだ側にとって、話は決着済みです。
- 土曜あなたは出勤しません。これはもう断ったのではなく、約束を破ったことになります。
- 結果争いになるのは頼みごとではなく、あなたが約束したことになっている内容です。
長い説明より、短い「いいえ」のほうが相手を怒らせにくい理由
詳しく説明するほど、相手を傷つけずに済むように思えるかもしれません。でも、理由を1つ伝えるたびに、相手がそこをつかんで引っ張れるようになります。「疲れている」と言えば、別の日に休めばいいと提案されます。「締め切りがある」と言えば、締め切りをずらすのを手伝うと言われます。長い説明は断りを交渉に変え、何度も改めて断らなければならなくなります。
ただし、短い理由を1つ添えるのは役立ちます。問題は相手ではないと示せるからです。エレン・ランガーが1978年に行った有名な実験では、コピー機の順番を抜かせてほしいと頼むとき、「〜なので」と付け加えるだけで、理由がほとんど中身のないものでも、応じてもらえる割合が大きく上がりました。この実験は断りではなく頼みごとを扱ったもので、大きな頼みごとでは中身のない理由は効かなくなりました。ここから直接当てはめることはできませんが、論理は似ています。理由を伝えることで、返事が「あなたは私にとって大切ではない」から「今はこういう事情です」へと変わるのです。
報告書を引き受けてもらえますか?仕事が山積みなんです。
いいえ、今回は引き受けられません。
どうしても無理ですか?2時間くらいで終わります。
無理です。金曜に自分の締め切りがあります。
わかりました。ほかの人を探します。
締め切りが延びるなら、言ってください。考えてみます。
「いいえ」と言ったあとにまた頼まれても、新しい理由を探さないでください。同じ言葉で、同じ理由を繰り返します。新しい説明は交渉のように聞こえ、繰り返しは事実として伝わります。そして、具体的な「その代わり」を1つ加えます。いつなら手伝えるか、代わりに何ができるか、ほかに誰に頼めるかです。代案のない断りは、そんなつもりがなくても、ドアをばたんと閉めたように聞こえます。
なぜ「どうなるか見てみます」は対立につながるのでしょうか?
「いいえ」と言ったあとにまた頼まれたら、何が役立つでしょうか?
出典
- 同じ言い回しを繰り返す方法は、アサーティブネストレーニングで紹介されています(マヌエル・スミス『「いいえ」と言うと罪悪感を覚える』1975年)。コピー機の実験は、ランガー、ブランク、チャノウィッツによるものです(1978年)。
「個人の境界線」シリーズの続き
サイトで全文公開3本、アプリにさらに3本
